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短編小説 『手袋をしたBud Powell』 by,清水“フォロー深野”武志 / 清水武志 - 2006-02-28 12:08:25

今年に入ってからずっと寒い日が続いている。そしてそんな一月のある日、私は町外れの小さなジャズクラブを訪ねていた。
営業前とあって御客の誰もいない冷えた店内、手袋を取る事なく暇つぶしにとピアノの前に座り何気なくブルースを弾いてみる。すると驚いた事に手袋をした私の手が奏でるブルースは酔っ払った様でもあり、またまるで別の何かでらりったかの様でもあり、とにかく実に暖かく且つクールでそれはまさに1950年代にバド・パウエルをはじめとする 多くのピアニスト達が奏でていた“それ”であったのである。
ジャズピアノを始めて誰もが最初にぶち当たる壁に8分音符の弾き方と音色がある。私も昔はこいつに随分と悩まされた。がしかし手袋をした私の手はいとも容易くその難関をクリアしている。これはやはり手袋のお陰と言っても過言ではないのであろう。
そしてやがてそんな事をして30分も遊んだ頃、店の常連客で発明家を名乗る男が血相を変えて入って来た。
「マスター遂に出来たんだ、あんた達に笑われていたあれが」、大きな声で無神経に話しかける男。がしかし着々と開店の準備を進めるマスターにとってそんな事はどうでもよく露骨に迷惑な顔をしている。だが男はそんなマスターの顔色になど気付く事なく更に話を続けようとしているので、 仕方なく私が代わりに話を聞く事にした。
どうやらこの男、今し方“タイムマシン”を完成させたらしくひどく興奮しているのだ。「このままでは収まりそうもない」、私は本番まではまだ4時間ちかくもあり少し暇を持て余してたことと、その男の研究所が近かった事からそのタイムマシンとやらを見せてもらいに行くことにした。
店から歩いて5分程の汚い雑居ビルの一階に彼の住まい兼研究所がある。 中に入ると過去のいろんな発明品そしてガラクタが散乱していて、よく見るとその一角に今回発明の“タイムマシン”が置かれていた。
彼の言うそれは公衆電話ボックスぐらいの透明の箱で、中にはいろんな装置がコンパクトに配置されていて、どうやら中に入って操作することで自分の行きたい時間に旅が出来るらしい。
「少しどこかの時代へ行きませんか?」
得意げに誘う彼に私は2時間以内で帰って来る事を条件に時間の旅に出ることにした。
私がリクエストしたのは1950年代の夜のニューヨーク。「じゃあバド・パウエルでも探しますか」彼もあのジャズクラブの常連ということでそれには大賛成のようだった。
『事実は小説より...』と言う訳で私達が着いてすぐにわかった事なのだが、50年代のニューヨーカー達にはどうやら我々の姿が見えていないようなのである。よく映画などでは未来から来た人間が過去に現われて歴史を変えようなどとするお話しがあるが、実際には時空を旅して来た我々の体の像はその時間の歪から過去や未来の光には反応せず、“他の時代から来た人間”がその時代の人々の前に姿を現わすなどいうことはなかなか簡単にはいかない事なのである。
しかし、我々は他人には見えないのをいいことに限られた2時間の間で実に沢山のジャズクラブにアプローチ、只入りしたのである。
こうして我々はバドパウエル以外にもセロニアスモンクやリッチーパウエル、ウイントンケリー、などという当時を代表するピアニスト達の演奏を生で聴くことが出来た。
そしてそこで私は見た“手袋をしたまま弾く彼等の姿”を。
[完]
営業前とあって御客の誰もいない冷えた店内、手袋を取る事なく暇つぶしにとピアノの前に座り何気なくブルースを弾いてみる。すると驚いた事に手袋をした私の手が奏でるブルースは酔っ払った様でもあり、またまるで別の何かでらりったかの様でもあり、とにかく実に暖かく且つクールでそれはまさに1950年代にバド・パウエルをはじめとする 多くのピアニスト達が奏でていた“それ”であったのである。
ジャズピアノを始めて誰もが最初にぶち当たる壁に8分音符の弾き方と音色がある。私も昔はこいつに随分と悩まされた。がしかし手袋をした私の手はいとも容易くその難関をクリアしている。これはやはり手袋のお陰と言っても過言ではないのであろう。
そしてやがてそんな事をして30分も遊んだ頃、店の常連客で発明家を名乗る男が血相を変えて入って来た。
「マスター遂に出来たんだ、あんた達に笑われていたあれが」、大きな声で無神経に話しかける男。がしかし着々と開店の準備を進めるマスターにとってそんな事はどうでもよく露骨に迷惑な顔をしている。だが男はそんなマスターの顔色になど気付く事なく更に話を続けようとしているので、 仕方なく私が代わりに話を聞く事にした。
どうやらこの男、今し方“タイムマシン”を完成させたらしくひどく興奮しているのだ。「このままでは収まりそうもない」、私は本番まではまだ4時間ちかくもあり少し暇を持て余してたことと、その男の研究所が近かった事からそのタイムマシンとやらを見せてもらいに行くことにした。
店から歩いて5分程の汚い雑居ビルの一階に彼の住まい兼研究所がある。 中に入ると過去のいろんな発明品そしてガラクタが散乱していて、よく見るとその一角に今回発明の“タイムマシン”が置かれていた。
彼の言うそれは公衆電話ボックスぐらいの透明の箱で、中にはいろんな装置がコンパクトに配置されていて、どうやら中に入って操作することで自分の行きたい時間に旅が出来るらしい。
「少しどこかの時代へ行きませんか?」
得意げに誘う彼に私は2時間以内で帰って来る事を条件に時間の旅に出ることにした。
私がリクエストしたのは1950年代の夜のニューヨーク。「じゃあバド・パウエルでも探しますか」彼もあのジャズクラブの常連ということでそれには大賛成のようだった。
『事実は小説より...』と言う訳で私達が着いてすぐにわかった事なのだが、50年代のニューヨーカー達にはどうやら我々の姿が見えていないようなのである。よく映画などでは未来から来た人間が過去に現われて歴史を変えようなどとするお話しがあるが、実際には時空を旅して来た我々の体の像はその時間の歪から過去や未来の光には反応せず、“他の時代から来た人間”がその時代の人々の前に姿を現わすなどいうことはなかなか簡単にはいかない事なのである。
しかし、我々は他人には見えないのをいいことに限られた2時間の間で実に沢山のジャズクラブにアプローチ、只入りしたのである。
こうして我々はバドパウエル以外にもセロニアスモンクやリッチーパウエル、ウイントンケリー、などという当時を代表するピアニスト達の演奏を生で聴くことが出来た。
そしてそこで私は見た“手袋をしたまま弾く彼等の姿”を。
[完]
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